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白髪の旅ガラス

いつもの床屋

 通い続けて二十二年が経つ。その間、交わした言葉は数分とない。サービスの始まりは、いつも同じ科白である。
「いつもと同じで」
「ええ」

 その床屋さん、一ヶ月前には店のシャッターが下り、そこに貼り紙がしてあった。
『都合により、本日はお休みします』
 以降、何度も足を運んだが、その度にシャッターは下りたままである。

 止むを得ず、他の床屋さんに整髪して貰ったものの、いつもの床屋さんのことが気に掛かり、その前を通る度にシャッターの上がっていることを心待ちにしていた。

 その日がついに来て、二ヶ月振りにいつもの席に座る。
「いつもと同じで」
「ええ」
「実は入院していまして」
「そうでしたか」
 以降、いつもと同じく無口になった。

 そば屋でね 昼間の麦酒 花見です
いつもの床屋_d0052263_15585228.jpg

by tabigarasu-iso | 2013-04-07 15:59 | 随筆 | Comments(0)