2012年 08月 28日
時を駆ける爺
過去に戻る手段はさておいて、二人は40年の時を駆けて20歳の時に戻る。男は、長い髪を肩まで垂らし、細いジーパンに太いベルトで腹を締めた。女は、目も醒めるミニスカートに恥じらいなく着替え、長い髪に手櫛を入れる。
金も着物も車も冷蔵庫も洗濯機も電話もなくて、共同のトイレに風呂は銭湯で女の長湯を男は待つことに慣れた。たまの贅沢と言えば、ラーメンライスの中華屋の前を通り過ぎ、気取ったレストランで慣れないナイフとフォークを使う。
四畳半一間のアパートも、小さな折り畳み式テーブルを開いても広く、財布の中身はなくても何とかなるさと鼻で歌い、仲間を集めて未来を語れば夜は更けた。
けれど、女は男と離れて渡英することになり、その当時は聞かなかった訳を男は聞く。
「四十年後も一緒であれば、その時に教えるわ」
女は、笑いながら答える。
「それが良い」
男は、強がりを言った。
昼寝する 女の鼾 蝉払い