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白髪の旅ガラス

鋏は使いよう、物は言いよう

 この辺りでは見掛けない金物屋が荷を下ろし、色んな種類の鋏を隠居の前に並べた。懐から紙束を一枚取り出し、その鋏で見事な盆栽を切り絵にしてみせる。

「ほう、見事な鋏の使い方。やはり腕だな」
「いえ、隠居様。この鋏は誰にでも旨く使える優れ物でございます」
「ほう、それを信じて二つ貰おうか」

 金物屋が去った後で、隠居は切り絵を試みた。一所懸命に鋏を動かしたが、思ったように絵は切れない。そこで残った鋏を取り出し、再び切り始めたが、思うような絵は切れなかった。

 隠居は、買ったばかりの鋏を夫人に捨てろと言う。頑固な性格を承知の夫人は、息子が帰宅するのを待って相談した。
「母上、私が父上に話しましょう。お任せください」

 その甲斐あって、隠居は鋏を神棚に上げて手を合わせたと言う。
「おまえ、どんな話をしたの」
「良い道具を選ぶ人は目が効く、それを使いこなす人は腕が良い。そう教えられましたが、買ったばかりの鋏を捨てるなど、目の効く父上の言葉ではありませんね」
「さすが、あたしの息子」

 もの言いで 鋏を学ぶ 爺になり 
by tabigarasu-iso | 2012-08-02 07:37 | 随筆 | Comments(0)