2011年 08月 19日
また吾妻に恋してる
いきなり、張り出た蔓がガラスを撫でた。思わず、眼を閉じて顔を退ける。ジャングルを走るジープに乗った訳ではないから、心の準備が出来ていなかった。
視線を山際から川沿いに移す。そこには、場違いな構造物が天を突いている。中止が宣告された八ツ場ダム建設工事の筈だが、新たな橋桁が建造中であった。
複雑な思いで渓谷を過ぎると、度肝を抜く大きな三層の城が現われる。岩櫃城(いわびつじょう)と大きく書かれているが、歴史に登場する城は山の上の自然を活かしたものだ。
客寄せ城なら、血を流さないから平和で宜しい。そう頷く間に風鈴の音が聞こえる。中之条駅のホームに下がる無数の風鈴だ。以前は干し柿であったから、いずれ替わるか。
駅員のアイデアに笑みは出るものの、乗降客の数は淋しい。金井駅を過ぎ、進行方向の左手に藁屋根の家が見える。主は知らないが、これまで維持して来た努力に頭が下がった。
間もなく渋川駅、高校時代を過ごした懐かしい場所である。駅員のアナウンスを聞きながら、『渋皮』の方が判り易いと想像したが。
ここで車内は満席になり、夏休み帰りの親子が席を争う今に戻った。これから先の車窓、もはやメモを取る必要はなさそうである。
盆も過ぎ 変わらぬ故郷 変わる人