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白髪の旅ガラス

また吾妻に恋してる

 始発の大前駅から渋川駅まで、吾妻川の流れに沿い一時間余り、利根川に合流するまで単線の吾妻線、車窓には様々のものが映る。

 いきなり、張り出た蔓がガラスを撫でた。思わず、眼を閉じて顔を退ける。ジャングルを走るジープに乗った訳ではないから、心の準備が出来ていなかった。

 視線を山際から川沿いに移す。そこには、場違いな構造物が天を突いている。中止が宣告された八ツ場ダム建設工事の筈だが、新たな橋桁が建造中であった。

 複雑な思いで渓谷を過ぎると、度肝を抜く大きな三層の城が現われる。岩櫃城(いわびつじょう)と大きく書かれているが、歴史に登場する城は山の上の自然を活かしたものだ。

 客寄せ城なら、血を流さないから平和で宜しい。そう頷く間に風鈴の音が聞こえる。中之条駅のホームに下がる無数の風鈴だ。以前は干し柿であったから、いずれ替わるか。

 駅員のアイデアに笑みは出るものの、乗降客の数は淋しい。金井駅を過ぎ、進行方向の左手に藁屋根の家が見える。主は知らないが、これまで維持して来た努力に頭が下がった。

 間もなく渋川駅、高校時代を過ごした懐かしい場所である。駅員のアナウンスを聞きながら、『渋皮』の方が判り易いと想像したが。

 ここで車内は満席になり、夏休み帰りの親子が席を争う今に戻った。これから先の車窓、もはやメモを取る必要はなさそうである。

盆も過ぎ 変わらぬ故郷 変わる人
また吾妻に恋してる_d0052263_123960.jpg

by tabigarasu-iso | 2011-08-19 12:03 | 随筆 | Comments(0)