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白髪の旅ガラス

新潟平野

 田は棚田、畑は山腹、視界は山脈、海の無い山国に生まれ育った旅ガラス、江戸、鎌倉、京都そして大阪へ、日本の文化や経済の中心地を訪れる機会は多いが、米の産地の越後を舞うのは二十年振りのことであった。

 大宮から上越新幹線に乗り、長いトンネルを幾つも越え、森林資源の豊かな日本を己の目で確かめながら、早めのビールでまどろむ。すると、あれほどあった山々が、彼方に消えて、眠気眼の視界の先には、兵隊の隊列に良く似た、稲の整然と立ち並ぶ青田が飽きるほど続く。

 その昔、棚田に馬を入れ、田植え前の田に水を充たし、馬鍬で土塊を砕き、田面を平らにする作業に借り出され、馬の先導をしたことがある。馬のひずめが泥水に入る度、先導役の少年の小さな背中に泥水を浴びせ、頭から尻の先まで泥だらけになり、身体が冷えて震えたことを想い出す。

 それに比べれば、何と立派な平地の田であろうか。かつて、越後の虎と呼ばれた武将が力を蓄えた理由が苦も無く判る。そこで、大いに期待してある駅に立ち降りたのだが、夕方六時だと言うのに、商店街に明かりは疎らであった。

「貴方の行きつけの店を紹介してください」
 旨いもの食わせる店とは言わずに、ホテルマンに聞き、紹介された店は、ホテルから歩いて直ぐの大衆食堂で、店内は地元の客で賑わっている。

 人目を気にせず大声で話す酔った男、母親の帰りを店内で待つ眠った子供、日本語の達者な外人、そして店には似合わない背広姿の旅ガラス。例により、地元の冷酒、餃子それにラーメンを頼み、一人で少し酔うには、充分な越後の居酒屋であった。

新秋刀魚 産地でつつく 地の酒と 
by tabigarasu-iso | 2005-07-23 23:59 | 随筆 | Comments(0)