2011年 03月 28日
床屋は無口な方が良い
「いつもの」
「ええ」
それだけで散髪が済むまで余分な話はしない。
室内にはテレビかラジオの音声が流れている。それに興味があれば耳を立て、そうでなければうたた寝すれば良い。用が済めば軽く肩を叩き、合せ鏡で後頭部を見せてくれる。
「お疲れ様でした」
「いいえ」
それでも、代金を支払い、店を出る際には忘れない。
「ありがとございました」
「お世話様」
頭も心も気分良く帰路に着く。
床屋は無口な方が良い。あれこれ喋りたがる床屋は、余分なことも口にする。それが気に障ることもあったから、この床屋を見付けて安堵したものだ。それに、お喋りが過ぎて、肝心の手先が疎かになり、耳を切り落とされたら堪らない。