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白髪の旅ガラス

名物とろろそば

 選びたくても食堂は一軒しかない。昼には少し早めだが、そば屋と刷り込まれた暖簾を潜った。店内は十人も入れば満席になる。そこに地元の人と判る男が六人、揃いの法被を着て何やら話している。

「いらっしゃい」
「あの、ここの名物を御願いします」
「とろろそばですね」
「ええ、それを」

 出された茶をゆっくり啜るが、先客のテーブルも空である。自分のそばが出来上がるまで、未だ時間が掛かりそうだ。電池の切れ掛かったパソコンを取り出し、店の人に許可を得てから、小さな一人用のテーブルでスイッチを入れる。

 元気を取り戻したパソコンは、通信回線へのアクセスも早い。昨夜から昼までのメールとブログを確認した。前者には迷惑なものばかりで呆れる。後者を開けば、更新などしていないのに意外なアクセス数があった。

「何故だろう」
 画面に夢中の男に、女が遠慮しながら声を掛ける。
「お待たせしました」
「はあ」
 独り言に照れた男は、パソコンを閉じ、名物のとろろそばを口にした。とろろの粘りも軟らかめで、そばとの絡み具合が良い。名物らしく、高い値ではあったが、味には見合うものであった。
名物とろろそば_d0052263_1184275.jpg


もう一度 寄ってみようか 駅の傍
by tabigarasu-iso | 2011-01-09 11:13 | 小説 | Comments(0)