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白髪の旅ガラス

里雪

 珍しく里に雪が降り積もる。バス停で市内循環バスを待つ間にも、横殴りの雪が全身を覆う。年甲斐も無く心が弾み、薄くなった頭髪が濡れるのも苦にならない。この瞬間を残そうと携帯電話のカメラを起動した。その瞬間に横を見れば、同じ年配の方の顔にも微笑が浮かんでいるのが判る。

 降りしきる雪を恨むこともなく、知らぬ間に童心へと帰っているのだろう。震える指先でカメラを操作する本人もそうだから、間違いあるまい。
「旨く撮れない」
 堪らず声にした。

 雪の落ちる様子を映そうとしたが、再生画面を確かめれば、そこに雪の姿は映らずボヤケタ風景になっている。それでは、車のライトに映し出された雪を撮ってみようとカメラの向きを変え、腕を脇腹に当て息を殺してシャッターを切った。

 その結果は前と殆ど変わらず。ライトに強調された雨の繁華街は、舗装の反射ばかりが目に付いて、雪の趣など何処にもありゃしない。数分後、バスを降りて歩道を行けば、平らな革靴の底が幾らか滑る。その危うい感触は、今も昔と変わらない。

里雪_d0052263_00110.jpg


雪道に 素足のままで 犬歩く
by tabigarasu-iso | 2010-02-07 00:00 | 随筆 | Comments(0)