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白髪の旅ガラス

沈黙しない春

 ある日、キャベツの産地として有名な村で、農薬の使用量を削減する農家とそれを指導する農協職員のドキュメンタリーをテレビ番組で観ながら、安心して食べられる野菜を供給するのは勿論のこと、健康な土壌の育成が農家の将来にとり大切であることを訴えるシーンを観て、沈黙の春という環境問題を捉えた有名な書籍を想い出し、鳥も鳴かない春を子孫には残したくないものと共感したものです。

 ところで、犬が飼いたい家族の望みに応えて旅ガラスが巣をこの地に移したのは、バブル経済が崩壊した直後で、目の前には五百坪を越す広さの雑木林がありました。秋には栗拾いもできる林の中で子犬を遊ばせた当時、毎年春が過ぎ夏を迎える頃になると、早朝から大きな鳴き声で子供達の通学を促すカッコウが飛来し、何しろ目の前の林で鳴くものですから、情緒はなく喧しいばかりであったことを想い出します。

 それから数年経った春先のこと、雑木を大型の建設機械が情け容赦なく抜き去っては切り刻み、あっと言う間に林を赤茶けた平地に変えてしまいました。もうあの喧しい鳴き声は聞えないだろうと諦めていますと、翌年も六月に入ったある日、遥か彼方から待ち侘びていた鳴き声が控えめながら聞えてきたのです。

 取り敢えず安心したものの、カッコウを遠くに追いやった責任の一部は、巣を作った旅ガラスにもあり、複雑な思いを胸にコンサル先へ向かう春でした。
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やれ踏むな 草の下行く カタツムリ
by tabigarasu-iso | 2010-02-06 16:40 | 随筆 | Comments(0)